指導・育成におけるグリット(やり抜く力)の重要性
エグゼクティブには、一緒に働くメンバーを指導・育成することが求められます。その効果は、対象者の成長の度合い、具体的には能力と意欲から判断されます。能力を高めるには指示やアドバイス、意欲を高めるには動機づけが必要です。指示やアドバイス、そして動機づけを組み合わせることで効果的な指導・育成を行うことができます。また能力と意欲の関係を理解することが重要です。意欲が高まると能力は高まりやすくなります。能力が高まっているという手応えがあると意欲が高まります。
能力と意欲を高める上で重要になるのがグリット(やり抜く力)です。グリットとは情熱と粘り強さの2つから構成されます。情熱を持って仕事に取り組める状態は、意欲が高い証拠です。そして粘り強く仕事に取り組むことは、能力を高めることにつながります。エグゼクティブが、一緒に働くメンバーにグリットを身につけさせるができれば、指導・育成の効果が高まります。
成長の原動力となるグリット
グリットは、ペンシルバニア大学の教授アンジェラ・リー・ダックワースが、2013年にマッカーサー賞を受賞したことがきっかけになり、注目度が高まり始めました。マッカーサー賞とは、アメリカにおいて有意義で創造的な活動を行っている卓越した人物に贈られる奨学金であり、将来への投資と位置づけられています。
ダックワースは、個人が成長するには素質よりグリットが重要であると主張しています。ダックワースがマッキンゼー(経営コンサルティング会社)に在籍していた時に、素質を重視する姿勢に疑問を持ったことが、グリット研究のきっかけになりました。
グリットの重要性を理解するには、能力を基本能力と実践能力の2つに分けて捉えることが必要です。素質が影響するのは基本能力を身につける段階です。基本能力が土台となり、試行錯誤を通じて実践能力を高めてこそ、仕事の成果をあげることができます。実践能力を磨くにはグリットが必要であり、グリットが成長の原動力となります。
グリットを身につけることの本質
成長の原動力であるグリットを身につけさせることの本質は、情熱を粘り強さに結びつけることにあります。一時的に仕事に情熱を持つことは容易です。しかし情熱を持続させながら、粘り強く取り組むことは、けして簡単ではありません。情熱を粘り強さに結びつけてこそ、基本能力を土台とした実践能力を磨くことができます。ここに指導・育成の意義を見いだすことができます。
情熱を粘り強さに結びつけることは、日常の仕事で具体的な活動目標を設定し、実行することによって実現できます。過去の企画提案書に毎週1件以上は目に通すことといった具体的で分かりやすい数値を含めた活動目標を設定します。この活動目標の実行が、次の企画を立案する際に斬新で魅力的なアイディアを生み出すきっかけになることが期待できます。もし活動目標の設定が難しい場合には、1日の仕事の終了前に20分間、その日の実績を反省して、翌日の仕事の計画に生かすことを考えることから始めることも1つの方法です。
「能ある鷹は爪を隠す」という諺があります。グリットを身につけせることは「鷹に爪を磨かせて、能ある鷹に成長させること」になります。エグゼクティブには指導・育成を通じて「鷹に爪を磨かせること」が期待されます。