事業計画におけるリスクの位置づけ
エグゼクティブには事業計画の立案と達成が期待されます。事業計画を確実に達成するには、立案段階からリスクマネジメントの要素を組み入れることが必要です。「リスクとは経営における失敗の原因」と松下幸之助(パナソニックの創設者)は定義しており、失敗の原因を取り除くことが、事業計画を確実に達成することに結びつきます。
リスクマネジメントの出発点は、SWOT分析により、失敗の原因になりうる自社の弱みと外部環境の脅威を把握することです。メーカーの場合には、弱みの実例には新商品の少なさ、プロモ-ションのマンネリ化など、脅威の実例には国内人口の減少、アメリカのTPP離脱などが挙げられます。
弱みを克服するための方策として、例えばベンチャー企業との提携や優秀な企画要員採用、脅威に対処するための方策として、例えば高齢者向け商品開発やアジア市場の積極開拓などを事業計画に含めることが必要です。
リスクマネジメントを組み入れた計画立案
リスクマネジメントは基本計画の立案、リスク対策の実行、モニタリング、是正と改善の流れで進めていきます。基本計画の立案ではリスクを洗い出し、評価して、対策を準備します。リスクの洗い出しではSWOT分析による弱みと脅威の把握が役に立ちます。リスクは発生可能性と影響力の2つの要素で評価します。リスク対策は、発生可能性を引き下げる回避、影響力を小さくする低減が中心です。弱みの克服と脅威への対処はリスクの低減になります。
リスクマネジメントを組み入れた計画立案方法にはシナリオプランニング、コンテンジェンシープラン、BCP(事業継続計画)があります。シナリオプランニングとは複数のシナリオを準備する方法です。例えば1つ目のシナリオではベンチャー企業との提携による新商品数の増加、2つ目のシナリオでは優秀な企画要員採用による新商品のプロモーション強化などを具体的に立案します。
コンテンジェンシープランとは不測事態の発生に備えて対策を準備する方法です。例えば地震の影響で国内工場が操業できなくなった場合、海外での増産体制を整備しておくことなどです。BCPでは不測事態発生後に通常の状態に復旧するまでの道筋を含めて計画します。例えば一時的に海外で増産している状態から国内工場の操業再開までの進め方を立案します。リスクマネジメントを組み入れた計画立案方法は、自社に相応しい方法を選択することが重要です。
リスクマネジメントの積極的な活用
リスクマネジメントには守りと攻めの2つの側面があります。守りの側面では弱みの克服や脅威への対処が中心になります。攻めの側面とは、強みを敢えて一部捨ててでもリスクに挑戦して事業計画の達成を目指すことです。攻めの側面はリスクマネジメントの積極的な活用といえますが、実例は欧米の企業において確認することができます。
GE(ゼネラル・エレクトリック)は「世界がいま本当に必要としているものを創る」というエジソン・スピリットを基づき、2年前から「デジタル・インダストリアル・カンパニー」を提唱して、事業再編に取り組んでいます。その過程で、収益の柱の1つであり強みであった金融事業を売却しました。GEは、第4次産業革命を主導していくことを目指しており、計画の達成は数年先になりそうです。第4次産業革命に直面している状況で、エグゼクティブにはリスクマネジメントを積極的に活用して、事業計画の立案と達成に挑戦することが期待されます。