働き方改革におけるエグゼクティブの役割
働き方改革の鍵を握る長時間労働の是正
政府は働き方改革実現会議を昨年9月に設置して、9分野での改革の方向性を示すとともに今年度の実行計画をまとめています。この改革には非正規の処遇改善、賃金引き上げ、長時間労働の是正、柔軟な働き方、子育てや介護と仕事の両立などが含まれています。こうした働き方改革の方向性を実現する鍵は経営者が握っています。
日本経済新聞が行った経営者向けのアンケートでは、実に90%以上の経営者が長時間労働の是正に関心を持っており、80%近くの経営者が是正に着手したと回答。多くの企業が長時間労働の是正を最優先課題と考えていることがわかります。
生産性向上の必要性
総労働時間を変化させずに1人当たりの労働時間を短縮すると、人員を増加させることになり、人件費が増加してしまいます。人件費の増加に結びつく長時間労働の是正には経営的なメリットはありません。そのため長時間労働の是正を経営的なメリットに結びつけるためには、総労働時間の短縮を現有の人員で実現することが必要です。1人1人のメンバーが現在の担当業務を、より短い時間で行うことによって、長時間労働の是正が経営的なメリットをもたらすことになります。つまり長時間労働の是正の前提として、生産性の向上が期待されるのです。
日本の生産性における課題
日本の生産性は諸外国と比較すると見劣りしています。OECD(経済協力開発機構)に加盟している35カ国の中では、日本の1人当たりGDPは2014年には19位、2015年には20位となりました。2015年の生産性の上位5カ国はルクセンブルク、スイス、ノルウェー、アイルランド、アメリカという顔ぶれです。GDP世界1位のアメリカと比較すると、日本の生産性は業界別にバラツキがあることがわかります。日本の製造業における生産性はアメリカの約7割であるのに対して、卸売・小売業は4割未満、飲食・宿泊業は約3割と格差が目立っています。
生産性向上と職場満足度の両立
働き方改革を実現するためには、アメリカと比較して見劣りしている生産性を高めることが必要です。しかし働き方改革の前提として労働者の処遇を改善することが含まれているため、職場の満足度を保ちつつ、生産性を高めることが求められます。そのためにはテレワークの拡大といった柔軟な勤務体制、介護や育児のための休暇を取得できる制度が必要になります。しかし体制や制度を整えただけで生産性と職場の満足度が自動的に両立できる訳ではありません。
生産性の向上と職場の満足度を両立させる上で米国立労働安全衛生研究所(NIOSH)の健康職場モデルが参考になります。NIOSHの健康職場モデルは、健康な組織では生産性と職場の満足度を両立させることができるとしており、両立に最も大きな影響を与える要素が組織文化であるとしています。
エグゼクティブに期待される課題解決
組織文化とは、その組織が持っている価値観のことで判断や行動の拠り所になります。生産性と職場の満足度を両立させることができる、望ましい組織文化をつくり上げることはエグゼクティブの役割として期待されるため、課題解決の鍵をエグゼクティブが握っていることになります。
エグゼクティブが立案する組織の計画と方針に基づいて、日々の業務を遂行することが組織文化をつくり上げます。具体的には、適切な業務遂行計画の立案、勤務時間を考慮した業務分担、必要情報のメンバーでの共有、業務の手順と進め方の明確化、メンバー同士の協力関係の確立が、生産性と職場の満足度の両立を実現すること、その基礎となる望ましい組織文化をつくることになります。望ましい組織文化は一朝一夕にはつくり上げることはできません。そのためエグゼクティブには粘り強い取り組みのために、リーダーシップを発揮することが期待されます。