資金調達環境の好転とエグゼクティブの役割
ソーシャルレンディングの拡大
金融業界でフィンテックが積極展開されています。フィンテックとは、主にITを活用した活用した革新的な金融サービス事業を指します。金融庁が設置した金融審議会では「特に近年は海外を中心に、ITベンチャー企業がIT技術を生かして伝統的な銀行などが提供していない金融サービスを提供する動きが活発化している」と説明しています。フィンテックには多様なサービスが含まれていて、利用が拡大しているサービスの1つにソーシャルレンディングがあります。
ソーシャルレンディングとは、インターネット上でお金の借り手と貸し手を結びつける融資の仲介サービスのことです。日本では2008年頃から始まり、今年3月末時点で主要各社の取り扱い残高は約700億円とされ、前年実績から倍増しました。さらに今年度の取り扱い残高は1,000億円を突破することが予想されています。ソーシャルレンディングは比較的、小口の資金が対象であり、有担保主義の銀行から資金を調達しにくいベンチャー企業中心に利用が増えています。担保を必要とする融資制度では、申し込んでから資金を調達するまでに数ヵ月を要するのに対して、運転資金を短期間で調達したいベンチャー企業にとってメリットがある制度です。
積極化するベンチャー投資
資金調達ニーズが高いベンチャー企業にとっては望ましい環境になっています。ソーシャルレンディングを含む融資に加えて、ベンチャー企業に対する投資も増加しています。特徴的なことは投資を本業とするベンチャーキャピタルに加えて、大企業によるベンチャー投資が積極的に行われていることです。昨年1年間の日本国内のベンチャー企業への投資は初めて2,000億円を突破しました。年間2,100億円という投資金額は一昨年よりも2割の増加であり、1社当たりの投資金額も増加しています。昨年、投資を受けたベンチャー企業は900社以上ありましたが、1社平均の投資額は約3億円となり、実績を確認できる2006年以降での最高を記録しています。
昨年20億円以上の投資を受けた企業には動画メディア運営や越境EC運営など4社ありました。また今年に入ってからはITサービス、動画メディア運営など3社以上が30億円以上の投資を受けています。こうした積極的なベンチャー投資が行われていることからIPO(新規株式公開)も活発です。今年の前半の6ヵ月間にIPOを実現した企業は39社であり、年間で80社から90社におよぶ見通しです。この10年間で最高であった2015年の年間92社を上回る可能性があります。
キャッシュフローの増加と活用の課題
ベンチャー企業のみならず、すでに株式を公開している大手企業においても資金調達状況は良好です。日米共通に有力企業でキャッシュフローが増加しています。この10年間でキャッシュフローが世界で最も増加した企業はアップルです。アップルは10年間で2,000億ドル以上のキャッシュフローが増加し、現在の資金保有金額は2,500億ドル以上になっています。ネットキャッシュ(現預金と短期保有の有価証券の合計額から、有利子負債と前受金を引いた額)でみると、日本企業ではソニーが約1兆円規模、任天堂がおよそ9,000億円程度ですが、それでも手元資金の潤沢さがうかがえます。
キャッシュフローの増加は企業価値を高め、さらに株価の向上に結びつきます。企業価値はフリーキャッシュフロー(自由に使うことができるキャッシュフロー)を加重平均資本コスト(資金を調達するためのコスト)で割ることで算出されるからです。一方で、増加したキャッシュフローの活用方法における課題が指摘されています。投資家の期待は将来にわたって企業価値を高めつづけることであり、そのためには資金を有効に活用することが必要不可欠だからです。
資金活用におけるエグゼクティブへの期待
資金調達環境が好転している状況で、キャッシュフローの有効活用においてエグゼクティブに期待されることがあります。
資金を有効に活用するための具体策には、新規事業の立ち上げやオープンイノベーションの推進などがあります。新規事業の立ち上げでは事業シーズと市場ニーズを結びつけること、オープンイノベーションの推進ではパートナー企業との信頼関係づくりが重要です。新規事業の立ち上げ、オープンイノベーションの推進は、いずれも社内外の関係者と良好な関係を築くことが不可欠です。社内外の関係者と良好な関係を築くためには、高いコミュニケーション能力とリーダーシップをもった人材が必要となります。
資金を有効に活用できるかどうかは、エグゼクティブを中心とする取り組みの成果によります。具体策を実行する段階のみならず、具体策の企画や準備段階からエグゼクティブが中心となって取り組むことで、そのコミュニケーション能力やリーダーシップを発揮する機会が多くなります。ぜひ、そこから、企業価値の向上に貢献してもらいたいものです。